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妖精について調べる
 
 

1.セカンド・サイト(透視力)を得る。
2.セカンド・サイトを持つ人と接触する
  方法は右足をその人の左足の下に入れ、その人の手を自分の頭に乗せ、
  その人の右の肩越しに目をむける。
3.四つ葉のクローバーを頭に載せる。
4.妖精の丘の土をふりかける。
5.「妖精の塗り薬」をつける
  つくり方は四つ葉のクローバーを調合してつくる。
6.マリーゴールドの花と妖精の丘の土を混ぜて浸けておいた液体を身体に塗
  る。
7.妖精界が人間界に近づく日(両世界の扉が開いている日)、妖精を見る可能
  性が高い
  聖ヨハネ祭(夏至、ミッドサマー)前夜(6月24日)、
  サウィン(万聖節前夜11月1日)
8.妖精に良い時刻は、日暮れ時、真夜中、日の昇る少し前、太陽が高くなる正
  午
  この日と時刻に、妖精界から騎馬行列が1年に一度それぞれの丘を巡る
  ので、妖精界にさらわれた人を救うのに好適とされる。
  例としてタム・リン。なお妖精の輪に入って踊ったものは、1年と1日後に
  救い出される。
毛むくじゃらで裸、自然物で身を包み保護色が多い。
1.主な材料
  木の葉、鳥の羽、蝶や昆虫の翅、クモの巣、緑の苔、カビ、
  山羊の皮(ドゥアガーは山羊の皮の上着、モグラの皮のズボンと靴、
       雉の羽飾り付きの緑の帽子を被っている。
       ブラウンマン・オブ・ザ・ミューアは枯れたワラビの服。
       ギリー・ドゥーは苔を服にする。シーフラはジキタリスの
       花の帽子。)
2.服の色
  赤帽子(コホリン・ドリュー―――海に潜るメロー、赤いナイトキャップをか
  ぶるクルラホーン)、白い帽子は飛行のときに用いられる。
  白い服(シルキー、タルイス・テーグ)。
  緑の服に金の飾り(妖精の女王)。
  黒の網ガウンに金色の下着(18世紀の記録)。
  青い上着に黄色の半ズボン(サフォーク地方)。
  灰色のマント、チェックのズボン、農家の人に似た服装(アイルランド
  南部)、緑の繻子〈シュス〉の着物に青い絹の帽子、黄色い皮のサンダル(ヘブ
  リディーズ諸島)。
 アイルランドの人魚メローは、アイルランド・ゲール語でコホリン・ドリュー
と呼ばれる赤い帽子をかぶり、これがないと海に帰れない。ある男が女メロー
の帽子を海辺で見つけて隠してしまい、帰れなくなったメローと結婚し幸福に
暮らして子どもも生まれた。しかしある日、メローはこの帽子を見つけて海に
帰ってしまった。これは日本の羽衣伝説とよく似た話である。
 イェイツによると、レプラホーンやそのほかの「ひとり暮らしの妖精」は赤い
帽子を、そして「群れをなして暮らす妖精」は緑の帽子を被っているという。
「ひとり暮らしの妖精」の中にはときに緑の帽子をかぶるものがいる。ただし
一般的には妖精たちの服装は、緑の上着に赤い帽子というのが普通である。
 この他、クルラホーンは赤いナイトキャップをかぶり、また白い帽子は飛行の
ときに用いられる。シーフラ(アイルランドの小さな群れをなす妖精)はジギ
タリスの帽子をかぶっている。またレプラホーンは赤い三角帽子(コニカルハ
ット)をかぶっており、何かいたずらを始めるときには、その三角帽子を軸に
して逆立ちし、くるくる回りながら呪文を唱えるといわれる。
 主に自然物(草、木、花)からとれるものが多い。民間伝承ではしばしば穀物
を人間に借りにやってきてはあとで返す。大麦やカラス麦が多い。『スコットラ
ンド高地地方と島々の迷信』(1900年)を参照すると、このほか窓辺に一杯のミ
ルクを妖精のために出しておく習慣があるところから、牛のほか山羊や鹿の乳が
多く、また木の実、木苺、ラズベリー、グーズベリーやそれでできたワイン、リ
ンゴやその蒸留酒が多い。またキノコや妖精バター(キノコから出る汁)、苔や
岩苔(ライヘン)も食料としている。
 人間の食べ物のエッセンス(ロバート・カークは「フォイゾン」と呼ぶ)や養
分を抜き取るので、そのあとの牛や食べ物は炭のように崩れるという。また一方
では妖精は小さなケーキ(Fairy Cake)を焼いたりワインをつくって恩を受けた
人に贈ったという話もある。"
 フォイゾンは「穀物や牛肉の実質の汁、またはエッセンスで、妖精はこれを食
物とする」と17世紀のパースシャー(現セントラル州)アバーフォイルの牧師ロ
バート・カークは言っている。アフラッハの小作人は、牛乳と焼きパンに十字を
切るのを忘れたのに気づき投げ捨てたところ、灰のように崩れたという。
外見はそのままだったが、妖精に精分を抜き取られていたので、犬さえ見向きも
しなかった。食物の味が抜けかさかさになるのも、妖精にフォイゾンを取られた
からである。現代のスコットランド語で foison という語が用いられているが、
これは fusion の意味が入っている二重語で、「豊富」という意味と「体力」
「精力」「精神力」の両方の意で用いられている。ロバート・カークはスコット
ランド人なので、この語の古い形を使用したのであろう。
1.名称
  フェアリーランド(Fairyland)、エルフランド(Elfland)、エルフハイム
  (Elfheim)、異界・他郷(Other World)、楽園(Elysium)、常若〈トコワ
  カ〉の国ティル・ナ・ノーグ(Tir na Nog、Land of Ever Young)
2.位置・方向
 ①中世ロマンスの妖精国
   森の中(『ユオン・ド・ボルドー』等)、山の頂(ローマ人物語)、
   洞穴の中(ブルターニュの騎士)、地の下(オルフェオ王)、
   湖・泉の下(イザベル夫人と妖精の騎士)、海の中の島(アーサー王伝説
   のアヴァロンの島)、海の彼方(詩人トマス)
 ②ケルト神話の他郷
   海の彼方(常若の国ティル・ナ・ノーグ)、波の下(ティル・フォ・スィ
   ンTri-foa-Suin、エヴーネ Emhnae)、海の中(至福の島イ・ブラゼイル
   Hy-Brasil)、霧の彼方(光の国ティル・ナ・ソルチャ Tir-na-sorch)、
   丘の中(幸の原マグ・メル Magh Mell)、女護の島(エヴァンEmhain)
   この他、楽しき国(マグ・モン Magh Mon)、五彩の国(イルダサッホ
   Ildathach)、生命の国(ティル・ナ・ベオ Tri-na-Beo)
3.妖精の国の様子
   薄明かり、緑の草地、湧き出る泉、乳・蜜・香油・葡萄酒が流れる、リン
   ゴ等の果実がなる、花が咲き良い匂いがする、小鳥が歌う、食べても減ら
   ぬ豚(アイルランド)、歌と踊りに明け暮れている、時間の経過が遅い
   (1日が10年、1か月が100年等)、不老不死、苦しみや悲しみがない、歌と
   踊り、城・宮殿・庭園、青銅・宝石・金・銀・水晶で飾られている
   (宝石はとくにエメラルド、サファイア、ルビー、琥珀が多い)
1.妖精の語源には次の3系統がある。
 ①「フェアリー」・・・・・・ ラテン語系統(イタリア語 → フランス語・英語へ)
  fairy(英語:フェアリー)
  fatum(ラテン語:「運命」)→ fata(イタリア語)→ faer,feer
  → fae,fe →fay(中世フランス語)→ fee(フランス語)→ fayerie
  (fay のかける魔法の意)→ fairy(英語)
 ②「エルフ」・・・・・・ 北欧語系統(古ノルウェー語、古高地ドイツ語から英語へ)
  elf(英語:エルフ)
  Alfr(古ノルウェー語)、Alp(古高地ドイツ語:「夢魔」)→ Aelf(古英
  語) → elf(英語)
 ③「シー」・・・・・・ ゲール語系統(アイルランド語、スコットランド語)
  sidhe(ゲール語:シー「丘、土塚に住む人」)・・・・ その由来はダーナ神族
                           Tuatha De Dannann
2.妖精の派生
 ①元素・自然の精霊
  昆虫(蝶、蛾、蜂、トンボ、バッタなど)に感情移入したもの。ルイス・
  スペンスの『ブリテン島における妖精伝承』では、この精霊説をとってい
  る。ギリシアのニンフに似て、草、木、森、水、光、冬など自然物の精霊か
  ら派生。野生の動植物のなかの守護者的存在。
 ②自然現象の擬人化
  計り知れぬ原因不明だった自然の力、万象の動きを畏れ敬うのは、古代
  人にとってごく自然であり、そこに自然物の神格化が行われる。嵐、雷、
  風、虹、地震など、自然現象の擬人化。
 ③卑小化された古代の神々
  W.B.イェイツによると「もう崇拝もされず、供物も捧げられなくなったアイ
  ルランドの異教の神々ダーナ神族が縮小したものである」。ダーナ神族が
  衰退し、次第に小さくなって妖精になったという言い伝えがアイルランドの
  『アーマーの書』に書かれている。ミレー族(人間、アイルランド人)との
  戦いに敗れて地下や海の彼方の島の妖精の国に隠れ棲み、目に見えない存在
  となってアエース・シデー(塚の一族)とも呼ばれるようになった。
 ④滅亡した古い種族の記憶
  各国に住んでいた先史時代の種族と妖精はしばしば混同される。インド・
  ヨーロッパ語族に征服される以前にヨーロッパに住んでいたイベリア人(
  前インド・ヨーロッパ人のひとつ)の記憶が人々の心の中で強められて、ひ
  とつのイメージに定着したともいわれている。また被征服民族であるスコッ
  トランドのピクト人などが衰退して森林や山中の岩間や丘に掘った穴に住ん
  でいたことから、塚や土まんじゅうの中に住んで石矢尻を使う妖精と重ねら
  れたともみられる。
 ⑤堕天使
  天に帰るほど良くもないが、地獄に堕ちるほど悪くもなく、海、地上、
  空中または地下にとどまるように運命づけられている堕ちた天使、あるいは
  地獄に堕ちる途中で留められ、最後の審判の日までさまざまな場所にいるこ
  とを定められた天使であるとも考えられている。中つ国(ナカツクニ)に住む霊とい
  われる。
 ⑥死者の魂
  妖精と死者は多くの共通点をもっていることから、しばしば同じものと考え
  られてきた。夜を好み、鶏の声を嫌い姿を消し、いつも飢えており、人間に
  悪いことをする。また五月祭メイ・デイ(ベルティネ)とハロウィン(サウ
  ィン)とミッドサマー(夏至)直前にこの世に現れ、妖精の国でも死者の国
  でも時間はこの世より早く過ぎる。そして、その国の食べ物や飲み物を口に
  すると人間はこの世に戻れなくなる。また妖精は死者を埋めた塚や土砦によ
  く出没するともいわれ、ハロウィンの前夜に妖精と死者が手を取り合って踊
  るとアイルランドでは言われている。
 アイルランドで10世紀ごろに編纂された『侵略の書』Book of Invasions は神
話時代におけるアイルランドへのいくつかの民族の侵略を記録したもので、キリ
スト教が入ってから書かれたため聖書の影響が見られ、最初にアイルランドにや
ってきたのはノアの孫であったとある。入島してきたのはパーソロン、ネメズ、
フィル・ボルグ族、そしてダーナ神族(トゥアサ・デ・ダナン)は第4番目に上
陸した種族で、その後のミレー族からが人間の歴史となる。ダーナ神族とは「女
神ダヌを母とする種族」という意味で、魔術や予言やドルイドの呪術に長〈タ〉
けた昼と光と知恵を表す良い神々であった。金髪碧眼で美しく超自然の力をもつ
巨人族であったが、次にアイルランドに来たミレー族(ケルト人)との戦いに破
れ、海の彼方や地下の国に逃れ、美しい国をつくって目に見えない種族、妖精
(シー、シィブラ)となったと信じられている。女神ダヌを生命の源の母なる女
神とし、大地を豊饒の神ダグザ、ダーナ神族の王「銀の腕の」ヌァザ、太陽と光
の神で知識・医術など全技能に秀でた「長腕の」ルー、海の神マナナン・マク・
リール、医術の神ディアン・ケヒト、鍛冶の神ゴブニュ、地下の神で妖精の王ミ
ディール、愛と若さの神オインガス、雄弁と言語の神でオガム文字の発明者とい
われるオグマ、戦いの女神モリガン、マッハ、バズヴァ、ボイン川の女神ボアン
などの神々がいる。アイルランドにはこのダーナ神族にまつわる変身譚や恋愛
譚、英雄譚など美しい神話・英雄伝説が多く伝わっている。
1.アザラシの妖精
  ローンはスコットランドの西部高地地方の妖精で、海の中ではアザラシの皮
  を着けているが、地上ではそれを脱いで人間の姿になる。オークニー諸島や
  シェトランド諸島の妖精セルキーも同様。アザラシの妖精に関しては日本の
  羽衣伝説にも似た話が伝わっている。
2.水棲馬
  アイルランドやスコットランドには、見た目は毛並みの良い馬で、捕まえて
  馴らすこともできるが、海や湖を見ると一直線に飛び込んで乗り手を食べて
  しまい、嫌いな肝臓だけを食べ残すという恐ろしいアッハ・イシュカ(オヒ
  シュキともいう)がいる。またスコットランドの水棲馬ケルピーもポピュラ
  ーで、旅人にいたずらをしかけ、だまして背中に乗せ池や川に駆け込む。毛む
  くじゃらの男の姿になることもある。他にマン島のカーヴァル・ウシュタ、
  ブラッグ、トラッシュ、ショックなど、みな変身能力をもつ 危険な妖精で
  ある。
3.水棲牛
  スコットランドの妖精牛クロー・マラ。人間にとっての危険はなく、危
  険な水棲馬と戦い人間を守った話も伝わっている。
4.ブラックドッグ
  燃えるような眼をした、仔牛ぐらいの大きさの黒犬。話しかけたり、触
  ったりすると悪いことがあると信じられている。この仲間にはバーゲスト、
  ガリー・トロット、マン島のモーザ・ドゥーグなどがいる。
5.妖精猫
  カット・シー(スコットランド高地地方)、大耳猫(呪文で呼び出せる悪魔
  の猫)。この他にもビーバーに似たウェールズの川の怪物アヴァンクや、巨
  大な水鳥の形をしたブーブリー、また人魚やギリシア神話のサテュロスやケ
  ンタウロスのように半人半獣のもの、またピクシーのように馬に化けて人を
  だますものと、動物の姿をもつ妖精は数多い。
 「妖精の動物」Fairy animals と区別が難しい場合がある。妖精牛は妖精の家
畜であり、妖精の乙女が人間に嫁ぐ際に持参金として連れてくることもある。
また妖精たちが飼っている猟犬としてはクー・シー、クーン・アンヌーンなどの
幽霊の狩猟犬群、そして悪魔と結びつきのある「ダンドーと猟犬群」「悪魔の猟
犬群」「ガブリエルの猟犬群」などがあり、悪魔に率いられて人間の魂を漁ると
もいわれる。
 妖精が好んで飼う動物には犬、猫、馬がある。犬は妖精の丘の番犬として飼っ
ているが、時折り蛙を使う場合もある。灯心草に呪文をかけて馬に変えることも
ある。概して飼育する動物の色を鮮やかにする。妖精猫は胸に白いブチのある大
きな黒猫。妖精犬は濃い緑色の毛をした雄牛大の犬で、イングランドのブラック
ドッグ(黒い毛、燃える真っ赤な目、仔牛大)に似ている。
 それぞれの妖精の性質や能力によって異なる。ハベトロットは糸を紡ぎ、プー
カは台所を片づけたり、レプラホーンは妖精がすり減らした片方の靴を修理す
る。また、地下で宝石を掘り守る鉱山労働者(鉱山妖精)もいるし、鍛冶屋、
農業、魚獲り、果樹園を守る役目の妖精もいる。目には見えない妖精の市場を開く
ことなどもある。
 妖精は器用で、さまざまな仕事をしている。人間と同じような職業があると考
えられ、とくに女の妖精は糸紡ぎ、機織りのほか、粉ひき、パン焼き、バターづ
くりなどもする。ハベトロットは老婆姿の糸紡ぎの守護妖精であり、レプラホー
ンは靴づくりの技術に優れているといわれる。ドワーフやコボルトなどは鉱山で
採掘や宝の番をしたり、水車を回したり、乳絞りもする。ドワーフは鍛冶の技術
に優れており、魔法の剣や船をつくる。妖精にさらわれた少年が鍛冶や冶金の技
術を教えられ、人間界に戻ってそれを使い成功した。
 妖精の楽しみのひとつとして音楽が挙げられる。群れをなして暮らす妖精たち
は「妖精の踊り」の項でも述べたように、人間の王族や貴族のように王や女王を
中心に生活し、音楽や踊りなどの楽しみを非常に好む。コーンウォールのセン
ト・ジャストに住む老人が聞いたフェアリー・ミュージックは、なにか惹き込ま
れるようで、踊りださずにはいられないほど陽気な調子だったという。背中に瘤
のあるラズモアが妖精の歌に合わせて上手に歌ったために背中の瘤を質として妖
精たちに預かられ、同じように瘤のある従兄弟がラズモアの話を聞いて代わりに
行ったが、歌が下手だったため瘤を取られるどころか自分の瘤の上にラズモアの
瘤までつけられてしまった、という話もある。
 また詩人トマスのように、人間の巧みな演奏家が妖精たちの楽しみのために妖
精界へ連れ去られることもある。逆に妖精の音楽を人間の弾き手が憶えて伝え広
めたとされるものもあり、そのひとつが「ロンドンデリーの歌」であるといわれ
ている。
 月夜の野原で妖精たちが輪になって踊った後にできるのがフェアリー・リング
であるといわれるように、一般に妖精が好む楽しみのひとつに踊りがある。ディ
ーナ・シーやシーリーコートといった群れをなして暮らす妖精たちは王や女王を
中心に、宮廷生活を営み、音楽、踊り、狩りといった遊びを好んで行うし、シェ
トランド諸島のトロー(ヘンキー)のように独特の奇妙なダンス(膝を抱えて跳
ねるヘンキー・ダンス)をする妖精もいる。こうした妖精たちの踊りの目撃譚は
数多いが、妖精たちは踊りの邪魔をされるのが嫌いなようで、ジョン・オーブリ
ーが書き留めた話によると、牧師のハート氏が暗くなりかけたころに丘陵を越
え、草の上に妖精たちがつくる緑色の輪のひとつに近づいたところ、無数の小人
たちが踊りの輪をつくり、歌をうたって騒いでいるのに気づいた。小人たちはハ
ート氏に気づくとすぐに周りを取り囲み、身体をくまなくつねりまわしたとい
う。また、妖精の輪踊りに引き込まれて1か月踊りつづけ、やっと救い出されたも
のの骨と皮ばかりになってやつれて死んでしまった男の話もあるが、その男の足
の指はすべて擦り減ってなくなってしまっていたという。
 「群れをなして暮らす妖精」は、「妖精の輪」をつくる。夜露に濡れた月明か
りの草原で、妖精たちが酒盛りをし、不思議な曲に合わせて輪になって踊った跡
にできた草の枯れた白い輪は、妖精の輪といわれる。科学的にはキノコの胞子か
ら伸びた菌糸が土の中で放射状に広がり、その働きによって先端部分の土壌が豊
かになる。そのため菌糸の先端近くに根を下ろしている草は高くよく茂る。
一方、放射状に伸びた菌糸の内側は草が少なくなり、栄養も不足気味となる。
キノコの種類によっては土壌が酸性になるので、地表の草は成長が弱くなりそこ
だけ円く禿げたように見えるのだそうである。「妖精と踊ったリース」の話で
は、妖精の輪の中に迷い込んだリースが妖精たちと踊り狂い、助け出されたもの
のひどく痩せて死んでしまった。「するとその翌朝、妖精の輪には、どう見ても
血のしずくとしか思えない、小さな赤い斑点ができていた。そして草には、小さ
な踵で踏まれた跡が、いちめんに残っていた」とある。また妖精の輪に落ち3年
間踊り続け、両足の指がなくなって帰ってきた男の話もある。輪の中には家が建
つほどの大きなものもあり、中の家族は幸運になるとも、反対に妖精に祟られる
ともいう。一般には妖精の輪は妖精のなわばりであり、これを犯すと妖精からさ
まざまな罰をくらうことになるが、この輪から妖精の国へ行ったという話もあ
る。
 「もしも夜更けに、遠出をすれば 嘆くニレの樹、怒るオーク、歩くヤナギに
出会うだろう」というイングランドの古謡がある。ニレの樹は病気にかかりやす
く、1本のニレが切られると近くの樹もいっしょに枯れるので「嘆く」といわ
れ、オーク(ミズナラ)は昔からケルトのドルイドによって崇拝され神聖な樹と
されていたので、切り倒されると怒り、切り株から生えたオークの若木は悪意に
満ちているので、夜が更けてから通るのは危険だとされている。またヤナギは
真っ暗な夜になると自分で根を引き抜き、旅人がひとりで歩いていると、後ろか
らつぶやきながらついてくるといわれている。
 妖精は良い香りの白い花をつけるサンザシ、リンゴ、ハシバミなどを好み、と
くにサンザシのそばで踊る。そして五月祭(メイ・デイ)の朝、サンザシの花の
咲く枝を家に入れると妖精が怒って災いをもたらすともいわれる。ハシバミの実
を食べた鮭を捕まえて食べると知恵が身につくという伝説がケルトの神話にあ
る。「インプツリー」すなわち接ぎ木リンゴは妖精の支配下に置かれているの
で、その樹の下で眠ると妖精の国に連れ去られることも知られている。
 赤い実のなるトネリコ、ナナカマドも妖精の好きな樹で、赤は生命のエネル
ギーにあふれた色で、悪魔を鎮めるため、赤い実は魔除けになるともいわれる。
ニワトコは神聖な樹で、その花や実は酒を造る良い材料になり、妖精たちが魔女
や悪魔から身を守り隠れるところとされる一方、ニワトコの樹は魔女が変身した
ものであるとする地方もある。
 「妖精に関係ある樹木」の項でも触れたように妖精は白い花、良い香りのする
花が好きで、ハニーサックル(スイカズラ)などにも好んで集まるようだ。
また、イバラやハリエニシダ、とくにヒースも妖精に無断でとったり引き抜いた
りすると祟りがあるといわれている。
 他にも呪文を唱えて妖精が馬にするノボロギク、帽子や手袋になるジキタリ
ス、パックが惚れ薬をつくる三色スミレ(キューピッドの矢の刺さったもの)
「ラヴ・イン・アイドルネス」、レプラホーンの隠した宝を守るキバナクリンソ
ウ、クルラホーンの宝を守るオグルマソウ、妖精の遊び場(ぶらんこ)のフュッ
シャなど妖精に縁の深い草花は数多くある。
 また逆に妖精の目くらましをはね返す力のあるワスレナグサ、頭に載せると妖
精を見ることができる四つ葉のクローバー、妖精に取り憑かれた子どもを治すの
にはジキタリスの葉の絞り汁、夏至の祭りの太陽のシンボルで、病気を治すオト
ギリソウ、妖精の魔法(グラマー)が効く場所をつくる「死人の鈴」(ブルー・
ベル)、妖精にかけられた病気を治し、呪いを解くにはオトギリソウ、ヴァーベ
ナ、クワガタソウ、コゴメグサ、ゼニアオイ、ウツボグサ、セイヨウノコギリソ
ウの七草が有効だとされ、13本のプリムローズで妖精の丘を叩くと妖精の国への
扉が開くなど、人間が妖精に対して用いる草花もさまざまに伝えられている。
また、マーメイドは結核に効く薬としてヨモギの絞り汁を教えた。
1.一般的呼称
 フェアリー(Fairy)、エルフ(Elf)、フェ(Fay)、シー(Sidh アイルラン
 ド)、スプライト(Sprite)、シーフラ(Shefra 南アイルランド)、ムリアン
 (Muryans コーンウォール)、トロー(Trow シェトランド諸島など)、
 ウーフ(Ough エリザベス朝時代)、タルイス・テーグ(Tylwyth Teg ウェー
 ルズ)、ピクシー(Pixy コーンウォール)、ダーナ神族(Tuatha De
 Dannann トゥアサ・デ・ダナン、ケルト)等"
2.婉曲的呼称
 小さい人たち(Little People、Wee Folk)、気の良いやつら(Good People、
 Good Folk)、良いお隣りさん(Good Neighbours)、平和好きの人々(People
 of Peace)、平和な人たち(Daoine Sidhe ディーナ・シー、スコットランド高
 地地方)、丘の人たち(People of the Hills)、あちらさん(Strangers)、
 あの人たち(They、It)、ちいさいさん(Grig、Tiddy People、Tiddy Men
 )、昔の人たち(Old People、People of the past)、正直な人たち(The
 honest people)、忘れっぽい人たち(The forgetful people)、良家の人
 (Gently)、金髪一族(The Fair Family)、母親の祝福(Bendith Y Mamau ベ
 ンディス・ア・ママイ、ウェールズのグラモーガンシャー)
3.妖精の呼び方(機嫌をそこねない呼称、婉曲的名前〔Euphemistic name〕)
 ①小さい人(The little people)
 ②小さいさん(The tiddy mun)
 ③ちっちゃいさん、ちびさん(The tiddy man、The wee folk)
 ④ちびさん(The little fellas)
 ⑤あの人たち(They)
 ⑥あちらさん(The strangers)
 ⑦それ(It)
 ⑧昔の人(The old man)
 ⑨良いお隣りさん(The good neighhours)
 ⑩良い人(The good people)
 ⑪丘の人(The pepple of the hills)
 ⑫緑の人(The greenies)
 ⑬平和好きの人々(The people of the peace)
 ⑭紳士がた(良家の人)(The gently)
 ⑮ワイト(超自然的な存在=妖精の呼称)(The wight)
 気まぐれ、怒りっぽい、陽気、ものおしみしない、きれい好き、良いことには
 良いことで返し、悪いことには悪いことで返す、いたずら好き、たたりをする、
 一度にひとつの感情しかもてない、秘密を好む。
1.気に入ること
 きれい好き、美しいもの、清潔な炉端、片付いた台所、きれいな水、陽気さ、
 楽しいこと、嘘偽りのないこと
2.好きなもの
 夜、月、人気のない野原、白い花と香り、夜露、しずけさ、音楽、歌、踊り、
 乗馬、ハーリング球技
3.気に入らぬこと
 プライバシーの侵害、覗かれること、邪魔されること、散らかった台所、汚れ
 た炉端、陰気さ、粗暴さ
4.嫌いなもの
 汚水、塩水、鉄、十字架、聖書、聖水、ニワトリの声、陽の光
妖精が好んで行う行為には次のようなものがある。
1.月夜の宴会(フェアリー・レヴェル Fairy revel)
2.妖精の音楽(フェアリー・ミュージック Fairy music)
3.妖精の輪をつくる(フェアリー・リング Fairy ring)
4.輪踊りをする(ハロウィンには死者といっしょに踊る)
5.妖精の夜なべ仕事。夜露や葉末のクモの糸(ゴッサマー Gossamer)
6.妖精の騎馬行列(フェアリー・ライド Fairy ride。英雄妖精が1年に一度ハロ
  ウィンの日に眠る丘を一巡りする。アーサー王はカドベリーの丘を巡る)
7.妖精の飛行(草の茎、小枝、草の束の馬、白い帽子、つむじ風)
8.妖精の狩猟(英雄妖精たちの楽しみごと)
9.妖精同士の戦争(人間の赤い血が必要で助けを求める)
10.海の底に棲む(メロー、マーメイドなど)
「ケルト暦」
1年に4つの祭りがあり、それらは2つのグループに分けられる。
◇第1のグループ◇
1.サウィン(Samhain 11月1日)
  ケルト暦で1年の始まり。冬、1年のうちで昼間が短く暗い季節の始まり。
  現在ではサウィンのイヴである10月31日がハロウィンとなり、「妖精」をは
  じめとする超自然の存在がこの世に現れる日とされた。
2.インボルク(Imbolc 2月1日)
  ケルトの女神ブリードの祭礼日。
3.ベルティネ(Beltaine 5月1日)
  ベレヌスの祭礼日。ケルト暦の夏、1年のうち昼間が長く明るい季節の始ま
  り。他にベルティン、ベルティーンなどともいう。語源は「木をこすって起
  こす火」という意味のゲール語で、収穫後の畑でたく火「bale fire」に近
  いもの、または「Beal」は太陽神のことで「Tain」には「輝く日」、「空」
  「神」の意味がある。ベルティネの祭りでは大麦やラス麦でつくったベル
  ティネ・ケーキを丘から転がして占いをしたり、バンノックと呼ばれるビス
  ケットを使ったくじ引きで生け贄を決め、生け贄を木に吊るし、刃物で切
  り、火で焼き、つまり3度殺して神に捧げた。現在ではメイ・デイ(May Day
   五月祭)となり、太陽の恵み多い季節の到来を祝い作物の豊穣を願って、
   町の広場に花や葉で飾ったメイ・ポールをたて、その回りを着飾った人々
   が踊ったりする、また盛大なかがり火(bonfire ボーンファイア)を焚く祭
   りがヨーロッパ各地に残っている。
4.ルナサ(Lughnasadh 8月1日)
  ケルトの神ルーの祭礼日。
◇第2のグループ◇
1.ユール(Yule 12月22日)
  だいたい冬至ごろに、また現在のクリスマスとも重なる時期に祝われる。
  冬の日に生まれ変わり、死んだ大地を蘇らせる太陽の祭り。語源は「車輪」
  (wheel)とも「風」(yell、yowl)ともいわれる。ケルトの神官ドルイドた
  ちはこの祭りでエスス、タラニス、テウタテスといった神々に捧げる
  「犠牲」の人間や動物を木に吊るしていたのが、キリスト教の伝播後、それ
  がクリスマス・ツリーの原形になったともいわれる。また他にも大きな網細
  工の人型の中に生きた人間や動物を詰めて火を放つ、ウィッカーマンの生け
  贄の儀式も行われた。キリスト教ではこの太陽の復活を祝う祭礼にキリスト
  の誕生を祝うクリスマスを重ねて広めた。
2.ミッドサマー(Midsummer 6月24日)
  夏至に当たる。シェイクスピアの『夏の夜の夢』でも描かれるように、ミッ
  ドサマー・イヴにはサウィンと同様、異界とこの世の隔てが薄くなり妖精た
  ちが地上に姿を現す。とくにサウィン、ベルティネ、ミッドサマーなどの祭
  礼日は妖精の国と人間界の隔てが薄くなり、妖精たちが姿を現す日として知
  られ、人々の習慣に深く根づいて文学の題材にも取り上げられている。
3.春分と秋分を祝う儀式は本来のケルトの風習ではないが、現在ニューペイガ
  ニズムを信奉する人々の中でこの日を祭礼とすることがある。
 妖精は死ぬことはないと一般には信じられているが、コーンウォールでは次第
に小さく縮み、最後には消えてしまうともいわれる。しかし妖精の葬式を見たと
いう話はいくつか伝わっている。リチャードという漁師がセント・アイヴスから
家に帰る途中、レラント教会の鐘がかすかに鳴り、窓から明かりがもれていたの
で不審に思い覗いてみると、中は薄いドレス姿で髪に花を飾った小さな人たちで
いっぱいであった。彼らは悲しげな様子で美しい女性が横たわる寝台を取り囲
み、祭壇の近くの穴にその寝台がおろされると、「女王様がなくなられた!」と
悲しみの声を挙げた。リチャードが思わずつられて泣き声をあげると、明かりは
消え妖精たちは蜂のようにうなりをあげながら飛び掛かってきたという。教会に
は妖精女王の墓があると今でも伝えられている。
 またイギリスの19世紀の詩人ウイリアム・ブレイクも、妖精の葬式を見たと書
いている。「ひとりで庭を歩いていたのですが、えもいわれぬ香りと、深い静け
さが広がっていました。ふと見まわすと、キリギリスぐらいの大きさで草色と灰
色をした生き物たちの行列が、バラの花びらの上に、ひとつの死骸を載せて運んで
いるのです。その死骸を埋めると皆姿を消してしまいました。あとで思うとあれ
は妖精のお葬式だったのです」。
 妖精たちは満月の晩に丘や塚、野原などで宴を開くのが好きである。美しい妖
精の王と女王を中心に妖精の騎士や貴婦人たち、そして大勢の小さな妖精たちが
塚の中や丘の上で賑やかに音楽を奏で、歌い、踊り、妖精の食べ物を食べ、酒を
飲む。こうして妖精たちが輪になって踊った後にはフェアリー・リングができ
る。このフェアリー・リングに人間が入ると、足の指がなくなるまで踊らねばな
らなくなるともいわれる。
近くを通りかかった人間は、ときに物珍しさから、また妙なる楽の音に魅かれ妖
精の宴に迷い込むことがあるが、妖精たちはあまり気にはとめない。妖精たちが
使っていた黄金の杯や皿、玉座を盗もうとした老人が、スプリガンに蜘蛛の糸で
巻かれて、刺された話などがある。
1.容姿--美しいものや身体に普通の人間にはないものがあったり、人間と動
  物の混合や醜く恐ろしいものがある。
 ①美しいもの
   等身大の湖の妖精たち、モルガン・ル・フェ、アウローラ・ボレアリス等
 ②美しいが普通の人間にないものがついているもの
   グラシュティグは山羊の蹄をしている
 ③醜く片足しかないもの
   ファハンは片足しかない
 ④恐ろしいもの
   バンシーは泣きはらした赤い眼、鼻孔がひとつ、水掻きのある足、長く垂
   れた乳房をしている
2.身体の大きさ
 ①意のままに変身。怪物の大きさにも、小人にもなる
   ボーグル、ホブゴブリン
 ②人間と等身大
   フェ、ハグ、湖の麗人
 ③2、3歳くらいの子ども
   モーキン、ドワーフ
 ④昆虫の大きさ
   ポーチュン、ムリアン(変身するたびに小さくなり、蟻の大きさになって最後
   に消える)。妖精画家のフイッツジェラルドは鳥の巣に入るほどの大きさの
   妖精の恋人たちを描いている。
1.手仕事に使うもの
  糸紡ぎ車、錘、織機、手廻し臼、パン焼き釜、バター作り機
2.職業として使うもの
  鍛冶屋の鞴〈フイゴ〉やハンマー、靴直しの槌と金床、鉱山労働者のつるは
  し、カンテラ
3.人間から借りてくるもの
  火、穀物を量るマス、大麦、水車、木槌、馬、鍋、盃
4.楽器
  笛、バグパイプ、ハープ
5.惑わしを行うもの
  オークの杖、リンゴの枝、芝草
6.魔法をかけて使うもの
  灯心草 → 馬、木の葉 → お金
 妖精は薬草からさまざまな薬をつくる。軟膏、油薬等、状態もいろいろで、用
途も幻覚も起こさせるもの、興奮させるもの、惚れ薬、しびれ薬、毒薬と多岐に
わたる。なかでも瞼〈マブタ〉に塗ると妖精の惑わしの術(グラマー)を破って本
当のものが見えるようになる薬があり、それをとくに妖精の塗り薬(フェアリ
ー・オイントメント)という。これを目に塗れば妖精が見えるといわれる。また
四つ葉のクローバーも頭に載せれば、妖精が見える効力があるといわれる。
 輸送の手段として妖精が用いるのはバッタ、蝶、鼠などの虫や小動物、卵の殻
やザルの目を泥で塗りつぶしたもの、馬、ロバ、山羊などがある。また妖精はノ
ボロギクの茎や小枝に呪文をかけて空を飛ぶ。よくしなる木の枝を曲げて、その
勢いで空を飛んでいくこともある。
 軟膏と油状があり、主成分は四つ葉のクローバー。人間が目に塗ると呪文を解
く効力がある。人間と妖精の混血児には透視力がないので、塗る必要がある。妖
精の男やもめに息子の子守りとして雇われたゼノア村のチェリーは、毎朝男の子
の瞼に塗る薬を自分の瞼にもつけてしまう。するとチェリーには自分の主人が妖
精であるのがわかり、彼が他の妖精にキスしているのが見えてしまう。嫉妬のあ
まり口から出した言葉から妖精の塗り薬を瞼に塗ったことが主人にわかり、チェ
リーは解雇される。
 「妖精の産婆」では、ウェストモーランドの取りあげ女が、知らずに妖精の赤
ん坊を取りあげることになる。そのとき塗り薬を赤ん坊の身体中にすりこむこと
になるが、自分の体には付かないようにと注意されたにもかかわらず、急に片方
の目がかゆくなり、無意識のうちに塗り薬の付いた手で目をこすってしまう。そ
の場は平静を装ってことなきを得たが、後日、町で妖精を見かけ、じっと見てい
ると妖精と目が合ってしまった。「どっちの目でおまえ、あたしを見ているんだ
い?」と尋ねられたので、片方の目を閉じてみると相手の姿が見えなくなった。
そこで女は、「そら、こっちですよ」と無頓着に見える方の眼を教えた。すると
妖精がその目に息を吹きかけたので、それからずっとその目は見えなくなってし
まったということである。「妖精の産婆」とまったく同じ話が、「ピクシーの不思
議な塗り薬」として、ダートムーアのホルン村に伝わっている。
 妖精界に迷い込んだ、あるいは招かれた人間が、妖精の使う杯あるいは角杯の
中身を飲まずに、杯を奪い取って脱出する話は少なくない。11世紀の年代記作者
ニューバラのウィリアムは次のような妖精杯の物語を書いている。ヨークシャー
地方の農夫が、夜も更けて帰る途中、塚から物音が聞こえてきた。農夫が覗いて
みると、中では多くの人々が盛大な宴会を開いていた。酒を勧められた農夫は、
中身は飲まずに杯だけを奪って帰り、この未知の素材でつくられた杯は英国王に
献上されたという。
 カンバーランドにあるイーデン・ホールのマスグレーヴ家の召使いが妖精のピ
クニックに出会い、そこから妖精の使っている杯をひとつ盗み、妖精に追いかけ
られながら馬をとばして逃げ帰ったという。これは1926年までその家に伝わり、
その後ヴィクトリア&アルバート美術館に預けられた。その杯はシリア起源のよ
うで、十字軍ごろ(13世紀)のものと思われている。この杯によってイーデン家
では幸運が続いたという話である。
 古代ケルトの人々はオーク(ミズナラ)、サンザシ、トネリコといった樹木に
は不思議な力が宿っていると信じており、ドルイド僧たちはオークを聖なる樹と
して崇め、魔法の杖はこのオークからつくられたといわれる。
ケルトの神話のなかにはドルイドの魔法の杖が登場する。地下の妖精の国の王で
あるミディールはコナハト王の娘エーディンを妻に迎えるが、彼女に嫉妬したミ
ディールの最初の妻フゥーナッハは、魔法の杖でエーディンを打ち彼女を水溜り
に変えてしまう。またリールの宮殿の4人の姉弟たちは、継母イーファのドルイ
ドの魔法の杖で白鳥に姿を変えられ、北の海へ追いやられてしまう。フェア
リー・テールの妖精の名付け親、魔法使いも、この妖精の杖を術をかけるための
道具に使う。魔法の杖はひと振りでいろいろなものが変化したり、時間が止まっ
たり、空間を浮遊したり、悪い魔法を解いたりできる万能の杖である。
1.妖精が人間に要求すること
 ①妖精の生活を侵害しない
 ②妖精の秘密を守る(プライバシーの侵害をしない)
 ③妖精が課したタブーを守る
 ④妖精の気にいるようにする(優しさ、寛容さ、思いやり、陽気さ、明るさ、
  嘘偽りのなさ)
 ⑤供物を捧げる(最初に絞った牛の乳、網の最後に残った魚、きれいなバケ
  ツの水)
 ⑥整理、整頓、清潔、とくに台所と炉端
 ⑦妖精の縄張りを侵さない(フェアリー・リング内に家を建てたり、妖精の
  通り道に汚水をまいたり、イバラやオークを無断で抜いたりしない)
2.妖精が人間に対してする行為
 ①自発的行為
  ①-①良いこと
   台所の整頓、皿洗い、麦刈り、麦打ち、糸紡ぎなどの手伝い。百日咳など
   の病気を治す。蜂に襲われたとき助ける
  ①-②悪いこと(a)
   いたずら=台所を散らかす、音をたて騒ぐ、惑わす、道に迷わせる、化け
   て脅かす、物を盗む、糸をからます、バターづくりの上澄みをすくう、
   サイダー(リンゴ酒)づくりの邪魔をする、麦刈りや水車を駄目にする
  ①-③悪いこと(b)
   害を及ぼす=妖精の矢を射る、病気にする(不妊、難産、筋違い、カマイ
   タチ、肺病、小児麻痺、トビヒ、リューマチなど)、眼を潰す、発狂、
   痩せ衰えさせる、溺れさせる、食べる、人・家畜をさらう
 ②他発的行為(人間の行為に対する応答)
  ②-①【褒賞】
   (人間がつくる原因)
    整理整頓ができている台所。片づいた炉端、きれいな水。
    よく燃える火。自分の乳房を妖精に吸わせる。    
   (それに対する妖精の行為)                                           
    幸運をもたらす。豊穣と生育をもたらす。金貨をくれる(木の葉に変わる
    こともある)。
    薬草の使い方を教えてくれる。
  ②-②【貸借関係】
   (人間がつくる原因)
    頼まれたことをしてやる。夜具(鍋、金槌)や食べ物を貸す。大麦や粉
    をやる。残りの食べ物をやる。火を使わせる。球技の応援をする。頼む
    ことをしてもらう。大釜を借りる。蜂が人間を刺さないように、どこか
    に連れて行く。
   (それに対する妖精の行為)
    願い事をかなえてくれる。金貨をくれる。貸したものを倍にして返す。
    ビスケットやワインをくれる。手伝いをする(樵、麦打ち、皿洗い)。
  ②-③【罰】
   (人間がつくる原因)
    妖精のプライバシーを侵害する――妖精のしていることを見てしまう
                    (月夜の宴会、妖精の騎馬行列)。
                    妖精がしてくれた好意を他に言う
                 (お金をもらった、手伝ってもらった)。
   (それに対する妖精の行為)
    つねる、刺す、痺れさせる。腫れさせる、手足を萎えさせる。視力を奪
    う、痩せ衰えさせる。歩行困難。発狂させる。岩から突き落とす。
   (人間がつくる原因)
    妖精の生活を侵害する――秘密を覗き見する。領地に足を踏み入れる。
                妖精の通る道に汚水を捨てる。
   (それに対する妖精の行為)
    沼に叩き込む。死に至らせる。贈り物を消してしまう。妖精の国から追
    放する。その家に不幸をもたらす。
   (人間がつくる原因)
    妖精のへ供物を怠る(一杯のミルク、一絞りの牛や羊の乳、一匹の魚、
              ひとすすりのワイン、一個のじゃがいも)
   (それに対する妖精の行為)
    青あざになるまでつねる。
   (人間がつくる原因)
    妖精の課したタブーを破る(鉄でさわるな、叩くな、尋ねるな)。
   (それに対する妖精の行為)
    幸運、財産(妻)が消える。
   (人間がつくる原因)
    寛容でない。やさしくない。思いやりがない。さばけていない。
    賤しい。ひねくれている。陰気。過度な好奇心。無作法。嘘つき。
   (それに対する妖精の行為)
    つねる。姿を現さない。
   (人間がつくる原因)
    不整理。不潔。新鮮でない食べ物。
   (それに対する妖精の行為)
    つねる。足を不自由にする。
  ②-④【仕返し】
   (人間がつくる原因)
    盗みをする(妖精の宝物、金の盃、金のボール)。
   (それに対する妖精の行為)
    盗品に変える。刺す。足を不自由にする。リューマチにする。
    空中に持ち上げる。死に至らせる。
   (人間がつくる原因)
    妖精の良い行いに対し礼をしない(一鉢のミルクを与えない)。
   (それに対する妖精の行為)
    つねる。痺れさせる。
3.人間に対して使う道具・方法
 ①矢を射る
   妖精の矢(フェアリー・ダート)
 ②杖で叩く
   オーク、ハシバミの木が多い。
 ③薬草を使う
   パンジーは惚れ薬、ジキタリスは痺れさせる
 ④息を吹きかける
   眼を見えなくする
 ⑤魔法をかける
   芝草を魔力でまどわしの草地(ストレイ・ソッド)にする
 ⑥変身
   馬になって人を化かす、ピクシー・レッド、プーク・レドン
4.人間と妖精の交渉
 ①人間に捕らわれた妖精
   緑の子供たち(グリーン・チルドレン)、スキリーウィデン、
   コルマン・グレイ、向こう見ずエドリックの花嫁となった妖精乙女。
 ②妖精にさらわれた人間
   妖精王、女王の結婚相手(妖精王フィン・バラとエスニャ、妖精女王ニァ
   ヴと英雄オシーン、妖精女王と詩人トマス、妖精トリアムールと
   騎士ローンファル、妖精女王と騎士タム・リン)。
   妖精の恋人(若さ、美しさ、能力のある人、金髪の人。リャナンシーは詩
   人に霊感を与え血を吸う)。
   授乳期の母親(妖精に授乳を頼まれる)。
   産婆(妖精のお産の手伝い)。
   妖精の子どもの子守り女(ゼノア村のチェリー)。
   ハーリングの試合の助け手。
   取りかえ子の赤ん坊(代わりにしわくちゃの赤ん坊か、丸太棒を置いて
    いく)。
   地獄の貢ぎ物とする人間(妖精は7年に一度地獄に貢ぎ物をするのでその
    犠牲として)。
 ③人間と妖精の混血児
   ロビン・グッドフェロー、ペリングス家の人々
5.妖精の国から帰った人間
 ①贈り物を与えられる
   詩才・音楽の才〔アークルドーンのトマス〕。薬草の知識。
   薬草の知識。鍛冶屋の技術。妖精の杯。家畜。
 ②やつれる、気が狂う
   フェアリー・リングから出たとき足の指がなくなる
 ③老人となる。
   アイルランドの戦士オシーンがこの世の土に触れたとき
 ④灰になって崩れる
   ブランの仲間たち
 ⑤妖精の国の食べ物を口にすると再び人間界には戻れない。
 妖精は人間に依存して生きる部分が多く、いろいろな物を借りにくる。穀物や
麦など、あるいは道具、木槌や秤、水車や火を借りにもくる。人間に貸す場合も
あり、頼めば大鍋も貸す。返す期日に遅れるとその鍋は使えなくなる。逆に人間
から借りるとお返しもした。例えばスコットランドのサントレイ島の農家のおか
みさんはいつも貸した鍋いっぱいにスープのだしをとる骨をもらっていた。
 サントレイ島にある「妖精の丘」の近くに、羊飼いが女房と住んでいたが、女
の妖精がちょくちょく家の門口に現れては、女房から鍋を借りていった。「女房
はいつも喜んで貸していたが、鍋を女に渡すとき、いつも歌の文句をひとくさり
唱えた。妖精はいつも夕方には鍋を返しにきて、中にはスープをつくるのに使う
骨が、たっぷり入っているのだった」。が、あるとき、女房が出かけることに
なって、亭主の羊飼いが妖精に鍋を貸すことになるのだが、亭主はこの呪文を唱
えるのを忘れてしまう。そのため鍋はいつものように返してはもらえず、女房は
それを取り返すために妖精の丘へ行き、妖精の番犬に追われながらも、どうにか
鍋を取り戻して家に帰り着く。しかし、妖精は、もう二度と鍋を借りにくること
はなかったそうである。
 人間が妖精から借りるものはあまりないので、この種の主題の話はあまり伝わ
っていない。J.G.キャンベルは『スコットランド高地地方と島々の迷宮』(1900
年)の中の一節で、妖精の貸し付けと借用について、こう述べている。「貸した
物が返されるとき、妖精たちは貸した物の相当分だけを受け取り、それより多く
も少なくも受け取ることはない。もし余分に返されると憤慨して、二度と同じ侮
辱を受けないために、もう絶対に貸さなくなる」。
 妖精市(フェアリー・マーケット)については17世紀にデヴォンシャーのブラ
ックダウン丘の斜面で、市に紛れ込んだ人の体験記が残っている。夕暮れに家路
を急いでいたところ、目の前に靴屋や金物屋の屋台、飲み物や果物を売る店が並
び、赤や緑の服に山高帽子をかぶった男や女が群れている光景がひらけたとい
う。時期と時刻がおかしいと思ったが、市場に入っていくと、目に見えるものが
実際に何もなく、ただ押し合いへし合いしているのを感じるだけであった。そこ
から他の場所へ行くとまた同じ光景が見えた。体に痛みを感じたのであわてて家
に帰ったが、体の片側が麻痺して生涯治らなかったという。ある農夫は妖精の市
でコップを買い、もらった木の葉のおつりをテーブルに載せておいたら、翌朝に
は金貨に変わっていたという。
 また19世紀の詩人クリスティナ・ロセッティは伝承の妖精市を踏まえながら、
ふたりの姉妹がゴブリンたちが売る妖精の果物に誘惑される、物語詩『ゴブリ
ン・マーケット』を書いている。
 ヴィクトリア朝の妖精画家たちが描く優美かつ繊細な妖精たちには、トンボや
蝶などの昆虫の羽根を背中にもち空中に浮かんでいるものが多いが、K.ブリッグ
ズによれば伝承されている妖精物語において、妖精たちが翼を使って空を飛ぶと
いうことはきわめて稀ということである。羽をもつ妖精が自分の羽で飛ばずにト
ンボや蝶に乗り、人間の姿をしたティターニアが羽もないのに空を飛んでいる。
裸身を包む薄いヴェールはさしずめ天女の羽衣だろうか。一般にはノボロギクの
茎や小枝、草の束などを馬に変えて、それに乗って空を飛ぶ。そのとき呪文を唱
える。古い例のひとつでは「ホース・アンド・ハドック(馬と帽子)」(オーブ
リー『雑録集』1696年)という呪文を唱えると枝や茎が馬に変わり、空中を飛べ
たという。妖精たちはまた建物、城、教会などを呪文を使って空中移動させるこ
ともある。
 月夜の宴(フェアリー・レヴェル)、音楽、ダンス、ハーリング(球技)、狩
 猟(騎馬行列)、フュッシャの花のブランコ、等。
 妖精の王や女王がお付きの者たちを引き連れて、華やかな行列をつくり、妖精
の国と人間界が近づくサウィン(ハロウィン)やミッドサマー、ベルティネ(メ
イ・デイ)などに群れをなして通る。
 また英雄妖精―――騎士ローンファルやタム・リン、アーサー王やフィッツジ
ェラルド伯などの眠れる勇者たちは、妖精丘(アーサーはカドベリーの丘、フィ
ッツジェラルドはムラハマストの丘)に眠っているが、1年に一度ハロウィン
(10月31日の夜)の宵に地上に現れ、馬に乗って丘を一回りするといわれてい
る。
 ジャネットは、白馬に鈴をつけて宙を飛ぶ妖精の騎馬行列から、妖精にさらわ
れていた恋人タム・リンを引きずり出し、イモリやタカに変身するタム・リンに
マントをかけてしっかり捕まえ、愛の力でこの世に引き戻した。
 朝の早い時刻の葉末に朝露が小さな真珠の玉のように光る繊細な蜘蛛の巣は、
妖精たちが夜っぴてつくった織物だといわれる。シェイクスピアの『夏の夜の
夢』に登場する4人の妖精は、蜘蛛の巣、蛾、からしの種、豆の花である。蜘蛛
と蛾は人気〈ヒトケ〉のない場所を好み、異様な姿からも妖精に深くかかわってい
る。人間を懲らしめるときは、妖精は蜘蛛の巣の糸で縛り、蜂のような針で刺し
たりする。
 「欲ばり爺さんと妖精のお祭り」は、欲ばり爺さんが、妖精の財宝を奪おうと
したが、番兵のスプリガンに蜘蛛の糸で縛られてしまう話である。
 一般に妖精から人間への贈り物というのは、人間が妖精にしてあげたことに対
するお礼であることが多いようである。
 例えば妖精に升を貸したところ、穀物で一杯にして返してくれたり、鍋を貸す
とスープをとるための骨で一杯にして返してくれたりする。
 「おいらの腰掛け壊れたよ!」と泣く妖精に同情した男が直してやると、クッ
キーとワインをご馳走してくれた。きこりの前に現れ弁当をねだるファー・ゴル
タは、お礼に木を束ねたり仕事を手伝ってくれた。台所で手伝う妖精のために窓
辺にコップ一杯のミルクを出して炉端にきれいな水を置く女中には、バケツの底
や靴の中に金貨を1枚入れてくれる。また詩人トマスは妖精の女王から嘘のつけ
ぬ舌と詩の才能、予言の力を別れに際して与えられた。人魚は人間に薬草の知識
を授けてくれるともいう。だがプーカがくれた金貨が葉っぱに変わることもあ
る。
 「小さな人たち」は、一般に農家の人々と友好的な関係にあり、農作業や、台
所の家事労働を手伝ってくれたりする。そのお礼にはミルク一鉢を窓辺に置いて
やればよいが、それを忘れれば青あざになるほどつねられるか、もうそれっきり姿
を見せない。一方、ミルクの鉢を出すのを忘れず、また清潔好きの女中などに
は、バケツの中や靴の底に金貨(フェアリー・コイン)を1枚いれてくれるとい
われる。また、とくに子どもたちの乳歯が抜け落ちた場合に、夜、小さな容器に
その歯を入れるか、枕の下に入れておくと、朝には歯の妖精(トゥース・フェア
リー)が金貨に変えてくれるという。
 「漁師とアザラシ人間ローン」で、アザラシ漁の名人の猟師が、自らが傷つけ
たアザラシの王を治療し、二度とアザラシを獲らない約束をしたかわりにもらっ
たのが金貨の入った袋だったという。
 ただし、時折り妖精の金貨は木の葉に変わってしまう場合もある。
 妖精たちは人間に対し罰、報復、いたずら等さまざまな理由で害を与えること
が知られている(「人間と妖精との関係」の項参照)。彼らは秘密を好み、自分た
ちのプライバシーを大事にしているため、人間に覗き見をされたり、生活を侵害
されたりした場合には容赦なく報復の行動に出る。つねったり青あざをつくった
り、身体の一部を痺れさせたりという比較的軽いものから、手足を萎えさせた
り、眼を見えなくさせたり、衰弱させたり、果ては発狂させたり死に至らしめた
りするという恐ろしいものまである。妖精の月夜の宴や騎馬行を覗き見てしまっ
たために全身を縛られて、つねったり刺されたり、妖精の塗り薬をうっかり自分
の瞼に塗ってしまい、妖精のまやかしを見破ってしまったために両目の視力を失
わされたり、妖精たちが通る鉢や領地内(ガリトラップ)に汚水を撒いたり家を
建てたりした場合は、家を壊されたり子どもをさらわれたりするなど、妖精のた
たりの話は数多く伝わっている。また台所や炉端が片づいていなかったり、汚れ
ていたりしても、妖精から何か盗んだり、妖精に対して恩知らずな行動をしても
仕返しをされる。
 妖精のなかには自由に変身できるもの、大きさを変えられるもの、ひとつのも
のにだけ姿を変えられるもの、魔法を使って変身するもの、まったく変身能力の
ないものがいる。
 ボギー、ボーグル、バグなどは変身してロバや家畜、ウサギとなり、人間にい
たずらをしたり、害を与えたりする。また妖精の動物のなかには妖精馬エッヘ・
ウーシュカのように普段は動物の姿だが人間をだますときには人の姿に変身する
ものもあるし、逆に馬の姿に変身して人間を背中に乗せ、そのまま沼や池に飛び
込んだり振り落としたりするプーカのような妖精もいる。同じく妖精の動物であ
るローンやセルキーはアザラシの妖精だが、アザラシの皮を脱ぐと人間の姿にな
る。
 一方、コーンウォールでは妖精は変身して元の姿に戻るたびに小さくなると考
えられており、その行きつく先がムリアンと呼ばれる蟻であり、最後には消えて
しまう。妖精の男やもめに雇われて男の子の世話をしたゼノア村のチェリーの物
語では、普段はチェリーと同じ人間大のご主人が、瞼に妖精の塗り薬をつけて水
底を覗いたところ、小さくなって小さな人たちと踊っていたという。
 妖精は人間の美しい赤ん坊を盗んで、その代わりに自分たちの醜い子どもを置
いていったり(「取りかえ子」の項参照)、自分たちの赤ん坊に乳を飲ませるた
めに授乳期の母親を乳母として盗んでいくことがあるが、その他にも美しい女性
(とくに金髪)、ハーリング(球技)のできる男性もさらうことがある(人間へ
の依存)。また自分たちが食べるために穀物や粉を盗んだり、チーズやパン、バ
ターといった食べ物の外形を残してその滋養分(エッセンスまたはフォイゾンと
もいう)を抜き取ってしまうこともある。また妖精たちは人間が飼っている牛を
自分たちの棲処である妖精の丘に誘い込むことがあるが、その場合も牛の外形だ
けを後に残すという。人間の目に見えない妖精がこっそり盗みをすることもあ
る。妖精の塗り薬をまぶたにつけた産婆は、市場でバターを盗む妖精が見えた。
セント・ブライアン農場では牛が突然乳を出さなくなり、乳絞りの女が四つ葉の
クローバーを頭に乗せたところ、小さなピクシーが牛に群がり乳を搾り取って壺
に入れているのが見えたという。
 まやかしの術、まどわしの能力で、グラマーはスコットランド・ゲール語でグ
ラマリー(glamarye)あるいはグラメリー(glamerie)の変形。人の感覚を一種
の催眠状態に入れ、その呪縛にかけた人を意のままにあやつり、別のものに見
せ、醜いものを美しく見せたり、見えたり見えなくしたりする一種の魔法術。
この術をかけられた人は、かけた者の意のままに物事が見えたりする。例えば妖
精に惑わされ洞窟が宮殿に見えたり、塩水がワインになったり、木の葉が黄金に
なったりする。民間伝承で有名なのは妖精に雇われた産婆が赤ん坊を取り上げた
ところ妖精の塗り薬をまぶたに塗ってみると赤ん坊はやせこけたギンギラ目の妖
精で灯心草の上に寝ていたということである。英文学のなかで初めてこの言葉を
使ったのはウォルター・スコットである。スコットは次のように言っている、
「貴婦人に騎士を見せたり、クルミの殻を金色の船に見せ、羊飼いの粗末な小屋
をひろびろとした宮殿に見せ、若者を老人にまた老人を若者に見せたりする、つ
まりすべてが幻で真実は皆無とする術である」(『最後の吟遊詩人の歌』1805
年、参照)。
 妖精を怒らせるようなこと(妖精の秘密を暴いたり、妖精の通り道を汚した
り、通り道に家を建てたり、妖精の課したタブーを破ったり、妖精の物を盗んだ
り)をすると、それに対する仕返しや罰として、妖精は妖精の矢を射掛けて、人
間の手足を麻痺させ、リューマチにしたり、視力を奪ったりする。
 先史時代の石の遺跡の周囲などに、妖精の矢尻が落ちていることがある、とい
う。秘密を覗かれたり、噂をされたり、不潔なものを妖精の道に撒かれたりする
と、おこりっぽい妖精はすぐに復讐をする。馬や牛に妖精の矢が射掛けられると
奇病で死に、人間はカマイタチのように傷口が開いたり、身体中が痺れ、または
腫れる。筋違い、不妊、衰弱、発狂など祟りが重い場合もある。
 ピクシーやプーカはロバや山羊に化け、人を背中に乗せて走り、途中で沼や川
に放り出して喜んだり、夜道を行く旅人を一晩中引き回して道に迷わせて楽しん
だりする。狐や狸の悪戯に似た「ピクシー化かし」を避けるには、外套を裏返し
に着るとよいと言われる。プーカは焼きリンゴに化けたり、ビールの中に飛び込
んだり、三本脚の椅子に化け、腰掛けようとするとパッと姿を消して尻餅をつか
せたりする。
 ダートムーアやボドミンムーアで道に迷うのは、旅人が不用意にピクシーの土
地に足を踏み込んだからで、一晩中引き回され、あげくの果てに沼に落ちたり、
馬に化けたピクシーの背にのってふり落とされたりする。こうしたピクシーのい
たずらは「ピクシー・レッド」(ピクシーの惑わし、ピクシー化かし、ピクシー
に引き回される)と呼ばれている。
 プリンスタウン近くのダートムーアで、チューダー王朝時代にジョン・フィッ
ツ卿がこのピクシー・レッドに会った話が伝わっている。同じ場所を輪を描くよ
うに何度も歩き回ったあげく、喉がかわき水を飲むとき、上着を裏と表に逆さに
して着てみたところ、自分がどこにいるかはっきりわかって、すぐに道を見つけ
て家に帰ったという。その水を飲んだ泉には1568年という日付が刻みつけられて
あり、「フィッツの泉」と今でも呼ばれている。
 アイルランドではストレイ・ソッドといい、ゲール語ではフォー・ジン・シャ
ハローンという。ピクシーやプーカのまどわしにあう草地をいう。別名「はぐ
れっ地」ともいう。妖精たちが特別に魔法をかけて、人をまどわす一定の場所を
いう。D.A.マクマナス『アイルランドの妖精国』など17世紀の研究書に多くの実
例がみられる。妖精のまどわしがかけられた草地の一隅で道に迷い、通ったはず
の門が消えてしまい道がわからなくなり、数分後、ふたたびそこに門が現れて
やっと術が解け、出られたという牧師の実例がある。
 アイルランドではストレイ・ソッドといい、ゲール語ではフォー・ジン・シャ
ハローンという。ピクシーやプーカのまどわしにあう草地をいう。別名「はぐ
れっ地」ともいう。妖精たちが特別に魔法をかけて、人をまどわす一定の場所を
いう。D.A.マクマナス『アイルランドの妖精国』など17世紀の研究書に多くの実
例がみられる。妖精のまどわしがかけられた草地の一隅で道に迷い、通ったはず
の門が消えてしまい道がわからなくなり、数分後、ふたたびそこに門が現れて
やっと術が解け、出られたという牧師の実例がある。
 妖精は清潔と整理整頓を好むので、怠け者の主婦や、子どもを洗うきれいな水
を炉端に置かない女中を青あざになるほどつねる。体のどこかに小さな丸い青あ
ざができていたら、妖精が指でつまんだ跡である。妖精のプライバシーを侵害し
たり、秘密を暴いたりするとつねられるが、ときには蜂に刺されたときのように
赤あざになったり、痺れたり、ときには不具の原因になることもある。
 トマス・ナッシュの『夜の恐怖』(1594年)には、妖精に関して次のように書い
てある。「今の時代にロビン・グッドフェロー、エルフ、フェアリー、ホブゴブ
リンと呼ぶものは、かつて偶像崇拝の時代やギリシアの空想的な世界では、牧羊
神、半身半獣、森の精、木の精と呼ばれたが、彼らはおおむね夜中に陽気ないた
ずらをした。また麦芽をすりつぶしたり、仕事着の麻のシャツを着て緑の野で輪
舞したり、家をきれいに掃除しなかった女中を寝ているあいだにつねったり、こ
ういっては可哀想だが、その悪名高いやり方で旅人たちの道を誤らせたりしたも
のだ」。この時代、すでに妖精のつねりについて言及されている。シェイクスピ
アにも、フェアリー・ピンチングはしばしば登場してくる。フェアリーは労働の
報酬をきちんとしない人間や、だらしのない連中、それに不信心者などをつねっ
て、青や黒のあざをつくるということが非常に広く知られていた。キャリバンが
毒づくと、プロスペロは「例の小鬼どもが・・・・・・身体中つねりたてて、蜂の巣の
ようにあざだらけにするぞ」と脅かすし、また『ウィンザーの陽気な女房たち』
の中でも「もしも火が埋けてなかったり暖炉の掃除をさぼったりしたら、女中ど
もをつねってやれ、クロウスゴ(黒臼子。ツツジ科の植物で、果実の先が臼のよ
うにへこんでいる)のような跡がつくまで」「懺悔もしないで寝ているような奴
は、つねってやれ、腕も足も、背中も肩も脇腹も、そして尻もだ」(5幕5場)と
ある。そしてフォルスタッフは妖精に化けた子どもたちからさんざんつねられ
る。これは民間伝承をそのまま巧みにシェイクスピアが利用したわけである。
 妖精は人間の赤ん坊を欲しがり、盗んでその代わりに木の棒やストック(木
偶)を置いていったり、しわくちゃな老人か醜い別の赤ん坊を残していったりす
る。見破る方法は、煮え立つお湯に投げ込む、焼け火箸をつける、珍しいことを見
せる。チェンジリングにあった鍛冶屋のおかみが、20個の卵の殻で酒造りをする
ふりをして火のそばに殻を立てたところ「ほっほーっ、800年生きているが、こん
なやり方で酒を造るなんて見たことはない!」と言って正体を現した。すかさず
火に投げ込むと消え、揺り籠には自分の赤ん坊が戻っていた。
 シェイクスピアの作『夏の夜の夢』では、妖精王オーベロンと女王ティターニ
アがインドから盗んできた可愛い「取りかえ子」をめぐって争いを起こしてい
る。またコギシャルのラルフの著書に出てくる「モーキン」というのはサフォー
クのダッグワース城に出没する妖精で、ふだんは姿を見せず、1歳の子どもぐら
いの声で話す。もともとは人間の子どもで、母親が仕事をしているときに麦畑に
置いておかれたので妖精にさらわれたとあり、すでに妖精の人間誘拐が描かれて
いる。城の騎士一家はモーキンの出没に初めは驚くが、次第に馴れる。仲よく
なった女中にいたっては、彼が小さな子どもで白いチュニックを着ているのを見
たという。食べ物を出しておいてやると、いつのまにかそれが消えている。モー
キンは7年間妖精界にいるが、あと7年間は人間界に戻りたいので、人間の食物が
必要なのだということである。このモーキンは「取りかえ子」にされた人間の子
どもであり、のちになると妖精の国の食物を食べると人間界に戻れなくなるとい
うことがいわれるが、ここでは逆に人間界に戻るには人間の食物が必要というこ
とが書かれている。
 妖精の矢(フェアリー・ダート)で射られるか、妖精の杖でつつかれたり、妖
精の火掻き棒(ポーカー)でつつかれたりすると、その箇所が痺れたり、あざに
なったり、切れたりする。日本でいう「かまいたち」のように、原因のわからない
傷や病気は妖精のせいにされた。
 妖精はときたま人間をからかうかのように憎めない悪さをする。あったものを
不意に隠したり、右の道を左に見せたり、物音を立ててポルターガイストのよう
に騒がしくしたり、夜道に不意に現れて人を驚かしたり、ないはずの白い花を幻
のように見せたりして、真実のように思い込ませたりする。人間に害を及ぼさな
い程度の一種の遊びと思われる。
(井村 君江【著】「妖精学大全」より)
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